今回のツーソンの展示会の報告については、宝石についてと関税問題について分けてご報告したい。宝石については、ちょっと芳しい状況ではなく、特に目新しいものはないうえに、昨年の報告で懸念されたことを実際に目の当たりにすることになった。それでもきれいなもの、面白いものもあり、ちょっとだけご紹介したい。
宝石について
今年のツーソンでは、残念ながら「まったく新しい宝石」と呼べる発見はなかった。しかしその中でも、印象に残る石はいくつかあった。
まず目を引いたのは、タンザニア産とされるクロム・トルマリンである。色合いは、まるでツァボライトのトップカラーを思わせる鮮やかさだった。説明によれば、クロムだけでなくバナジウムも発色に関与しているのが特徴で、黄色みのない澄んだミントカラーが非常に美しかった。産地としては以前から知られている場所だが、昨年は特に珍しい色調のものが採れたという。また、その結晶も販売されていたが、トルマリンでありながら、五角形の面でできた正十二面体に近い形が独特だった。ツァボライトは近年、高級ブランドが買い集めたことで値段が上がっており、同様な美しさを持つ、このトルマリンに関心が集まったのだろう。


タンザニア産のクロムトルマリン(Photo: Mr. Raja Shah, COLOR First)

いろいろなカラーのタンザニア産のグリーン・トルマリン
また、モザンビークのFURA鉱山から産出したというパパラチア・サファイアもきれいだった。淡いものが多いスリランカのものと比較すると、その色の鮮やかさはさすが、ルビーを生む鉱山のものだと納得させられた。多くのものは加熱されているということだったが、加熱で暗さを抑えることでよりパパラチアに近づけたと考えられる。展示されていた数も多く、今後日本の市場でも見られるようになるのではないだろうか。色ムラが強く、位置取りでうまく色ムラを抑えるようにすると、日本の基準でもパパラチアとして判断されるものも多くなるのではないだろうか。


モザンビーク産のパパラチア・サファイア

モザンビーク産のパパラチア・サファイアのロット
そして今回、最も強く目を引いたのはモザンビーク産のパライバ・トルマリンである。大粒で透明度の高い石が数多く並び、その存在感は圧倒的だった。しかしこの背景には複雑な事情がある。以前ご紹介したように、モザンビークでは一昨年、大統領選挙をきっかけに暴動が起こり、主要鉱山が襲撃された事件があった。支持者たちが暴徒化し、採掘された原石を奪っただけでなく、採掘プラントまでも破壊して回ったという。
襲撃を受けた鉱山主に話を聞くと、事件後に特別多く原石を市場へ販売した事実はないという。そうなると、今回展示されていた石の一部は盗掘品が流通した可能性も否定できない。もちろん、展示会で販売している業者が市場から正規に購入している以上、責められるべきではない。それでも、どこか煮えきらない思いが残った。モザンビークのパライバについても写真を取らせていただいたが、状況を鑑み、写真の掲載は控えたい。
鉱山側は現在、防衛体制を強化し再建を進めているという。この一時的に市場へ流れた石が尽きたとき、次に同じ規模で目にするのはいつになるのだろうか。そんな不安とともに、強い印象を残す出来事であった。
他に気を取り直して、ダイアモンドで興味深い売り方をしているものがあった。ひとつは、天然のブラック・ダイアモンドに特化したBjorn Salt & Pepper Diamondsで、いつものラウンドブリリアントカットではなく、ブラック・ダイアモンドの特性を活かしてファセット面を減らしたカイトカットなどをしたもので、黒いインクルージョンを引き立てるカットがされたものである。ダイナミックなカットをしたもので、メンズジュエリーなどに使ってみたいと思わせる魅力があった。さらに天然のものであるため、そのインクルージョンは2つとして同じものがないことも魅力である。


また、こちらは合成ダイアモンドを用いたものだが、その素材の自由さから、天然では考えられないカット(彫刻)が施されたものも見られた。Lab Grown Diamonds USA 社のもので、うさぎやトランプ大統領の形にカットされたものもあった。ダイアモンドを自由なカットするレーザーカッティングなどの技術もあってのことと思うが、ちょっとこれまで知っているダイアモンドとは違うイメージだった。


続いて、このダイアモンドのモチーフであり、また今回の展示会でどこでも話題になっていたトランプ関税について、触れてみたい。

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