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ジェム・インフォメーション 第23号発行  2002年12月12日

ベリリウム加熱のパパラチャ・サファイア “ 加熱加工の開示 ”

2001年秋から出回り始めたパパラチャ・サファイアの新しい加熱方法で世界中が混乱し、いまだに我々は明確な解答を得られず、先の見えない状態が続いている。一歩間違えれば他の宝石にまで波及し、商売に大きくブレーキをかけかねない危険な方向に進んでいるようにも感じる。

ドイツの旧友を通して、タイで最大の加熱工場を持ち30年以上にわたりコランダムを中心として加熱加工を研究しているY氏と知り合うことができた。何度となく話しをするうちに、“バンコクに来て私が30年以上研究してきた事実を見て欲しい。もちろん焼いている炉の状況や、焼く前の宝石の状態、加熱後の状態、その他疑問に思っている事はすべてオープンにして見せるので、一日も早くバンコクに来てほしい。”との申し出を受けた。

日本市場の現状や今後のことを考えて、絶対に逃す事は出来ないチャンスと考え、すぐ訪問することにした。幸いドイツの旧友も私の予定に合わせてバンコクまで来てくれる事になり、2002年11月初旬の約一週間工場を見学することができた。今回の訪問で、長い間悩んできた数々の疑問点を解き明かす事ができたと同時に、長い宝石加工の歴史の中で、すばらしい高度な技術が開発されていた事に気付き、目を見張る思いであった。 私が見たこと、実際に実験させてもらった事、持ち帰ったサンプル石を分析した結果をここにすべて報告する。
1) 今までの加熱方法と実験結果
2) 加熱加工に用いる炉??
3)ベリリウム (Be) 加熱加工の結果
??? A)ベリリウム使用の新しい加熱方法
??? B) 産地別の加熱結果
??? C) 合成ホワイト・サファイアのベリリウム使用の加熱結果
4)まとめ / 加熱加工の開示??
5)鑑別書の表記に付いての提案

ジェム・インフォメーション第23号は、“ベリリウム加熱のパパラチャ・サファイア”特集号です。52枚(82カット)の写真で詳しい報告をさせていただいています。ご覧になりたい方はご一報ください。

1) 今までの加熱方法と実験結果

Comparison with exiting heat treatment

宝石加工の歴史に於いて加熱加工は画期的な発見であり、それによりたくさんの美しい宝石が供給されてきた。コランダムにおける加熱加工は1970年代初めより行われていると言われているが、実際には、はるか以前より色々な方法で既に行われていたという説もある。
加熱加工で重要な要素は、酸化と還元であり、又それらの加熱温度である。酸化とは物質中の原子の正の電荷数が増加する事であり、具体的には、酸素と化合するなどして電子を失う事である。還元とは酸化に相対する語で、本来の意味は酸素化合物から酸素原子を取り去る事である。さらにプラスの水素イオンを添加する反応も還元と言う。

コランダムにおける加熱温度は大きく分けて低温加熱(800?1000C)と、中温加熱(1300?1400C)、高温加熱(1700?1800C)に分かれ、少しずつ温度を上げて変化の様子を見て、又温度を上げてはチェックを繰り返して、宝石用として利用できる最高の美しい品質に仕上げられる。例えばルビーの加熱方法は、美しい赤色にするために、酸素を加えて酸化を促すことにより赤色に含まれているパープルやブルーを抜き取る。この場合は低温加熱で抜き取る事も可能である。

淡灰、淡黄、淡褐、淡青、無色等のギューダ(Geuda)の加熱方法は高温加熱を必要とする。カーボンを多量に含む灯油やプロパンガスを加え、燃焼を高める酸素を補給しながら温度を上げて行く。高温になると反応が良くなり、美しい色が誕生する。ギューダ(Geuda)の場合はそれぞれの宝石のもっている要素にもよるが、1700C以上に上げると美しい青色になる。一足飛びに1700Cに上げるのではなく、約7段階の工程を経てやっと理想とされる色が生み出される。もちろん7段階の途中で、それぞれの宝石の持つ要素により、低温、中温ですでに最高の色に変わるものもある。その場合は、その時点で取り出す。もし誤って高温にしてしまうと色が濃くなりすぎて使えなくなる場合もある。

加熱する時には、ガスに酸素を加えて燃やす。その場合のガスには水素ガス(Hydrogine)窒素ガス(Nitrogine)、プロパンガス、アルゴンガス(Argon)等が考えられ、それに灯油を混ぜながら燃焼する。このガスは、空気中の酸素が石と結合しないように、酸素の代わりに石の周りを包む役割をしている。 これらの加熱方法でミックスされた約1Kgの原石を実験した。
1.最初に肉眼でわかる範囲で、コランダム以外の石を取り除く。
2.バレル磨きをかけて、丸みを帯びた石(硬度の低い石)は全てはじき出した。(約200g)
3.1000C加熱――天然の濃青色のサファイアが少し淡くなり、透明感が良くなったのでそれらは取り出した。約900Cで、ガーネットは既に溶けている。
4.1400?1450C――天然の淡青色のサファイアでチタンの含まれている石は、約1350Cでチタンが溶け、還元されて青みが増した。ジルコン、ガーネットもこの途中で溶けている。
5.1500?1550C――まだ色が淡い場合には更に温度を上げるために、灯油を加えて還元を進める。灯油→加熱→カーボンを増やす→高温になる。 クリソベリルなども溶ける。
6.1600?1650C――5の工程を繰り返し、温度を上げる。
7.1700?1750C――さらに繰り返し温度を上げる。
使われる燃料は、基本的にはプロパンガスと酸素の組み合わせで加熱が進められた。
以上のように何回も温度を上げながらチェックする作業を繰り返し、美しい色に変わった石はその都度取り出した。
1から7の工程で約3分の1の250g程がサファイアとして売れるほどの青味を増した。残りの500gのうち約半分は、酸化させて黄色に仕上げ商品化した。残りの250g程は変化なく、無色サファイアとして販売する。?以上の実験で青味を増した石は、色相、透明感などの点ではグレードが低く、価値の低い石であったが、約3割はやっと商品として使えるものであった。

(注:溶けた石は推定である)

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2) 加熱加工に用いる炉

Hearth for the treatment

加熱加工に用いられる炉には、大きく分けて電気炉とガス炉の2つのタイプがある。電気炉は熱電対温時計や自動装置を取り付けることによって、時間と温度を正確に調整できる。何時間で何度ずつ温度を上げ下げするかという細かい設定が出来る。しかし高温加熱を長時間継続するために、炉の中の発熱体がすぐ溶けてしまい、炉全体を取り替えなくてはならなくなるという。?

? 一方ガス炉は、大中小の3種類あり、今回使用したのは小のガス炉(写真1)だった。サイズは小が直径75×60cm、中が直径75×80cm, 大が直径75×100cm程で、それぞれ4箇所の入り口があり、そこから燃料が送り込まれるようになっている。試しに、写真1にあるように1800C近い高温で加熱しているガス炉のそばに立ってみたが、熱すぎていられないほどだった。差し込まれている四本のパイプからは、プロパンガス、酸素と、水が流し込まれていた。この水は1800Cで加熱しているバーナーの先端を水冷方法で冷やすためで、それで長時間加熱する事が出来るとの事だ。この方法を考えつくまでは、何度もバーナーの先端を溶かしてしまったり、爆発を起こしたりした事もあったという。主な燃料であるプロパンガスも長時間高温で使用し爆発の恐れもあるので、水の中で冷やしていた。 又途中から還元度を上げるために灯油を加えるので、そのための配管もされていた。

新しい加熱加工では、約7?8時間かけてゆっくりと温度を上げ、4?5時間高温を維持し、冷やす時も同じ時間をかける。電気炉では細かい調整が出来るため、同じ時間でもゆっくりと温度を上げていく。特に価値の高い大きな石や、質の良い原石には電気炉を利用するとの事だ。約2日間かかる工程の後、中まできれいに色が変わって仕上がる石もあれば、途中まで変わってカラーリムが見える石もある。しかしカラーリムの見える石も、もう一度、二度と加熱を繰り返す事によって中心部にあった要素が反応して色が変わり、カラーリムの見えなくなる石がある。ただし逆に何度も加熱加工を繰り返しても元のピンク色のままで、全く変化しない宝石もあり(写真2の下段は10回加熱したが、最初のピンク色のままである)、ベリリウムの加熱加工が色の直接の原因になっていない事がはっきりしている。

写真2.

上段: ベリリウムを加えて1回の加熱後に、既にパパラチャ色に変化した2ピース

下段: イラカカ産の天然ピンクサファイアをベリリウムを加えて10回も加熱したが、ピンクのままで全く変化しなかった4ピース

加熱加工に用いるルツボの素材は、高温に耐える99%以上の純度の高いアルミナセラミックを使っている。コランダムもアルミナであり、同じ素材を使っているという事に少し驚いた。又ルツボのサイズも重要で、大きさ、形の違いで20種類以上もあった。 その使い分けは、石の大きさのみならず、どこの産地からの石であるかによっても使い分けているという。産地により同じ宝石でも微量に含まれている元素が異なり、それが影響を及ぼすためと思われる。

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3)ベリリウム加熱の結果

The result of the Beryllium treatment

A)ベリリウム使用の新しい加熱方法

この新しいベリリウム使用の加熱も、今までの加熱方法と全く同じ方法で行われている。一つだけ違う点は、最終段階の高温加熱の時に、触媒としてクリソベリルの粉末を加えて加熱することである。マダガスカル イラカカ産の原石を加熱している時に、はからずも混ざっていたクリソベリル(ベリリウムを含む)が反応して、以前とは違う結果が出た事に気付いたのだという。 ここで大切な事は、加熱に用いるクリソベリルが直接石を着色しているのか、それともその石の持っている要素を引き出しているのかがポイントになる。すなわちルツボの中のコランダムの原石がDiffusionのように全て同じ色に変化するのか、あるいは石によって違った色に仕上がるのかが判断の基準になる。
?新しいタイプの加熱工程をもう一度整理しよう。?
1.最初に肉眼でわかる範囲で、コランダム以外の石を取り除く。
2.低温加熱(800?900C)――ガーネット等を取り除く。
3.低温よりやや高い温度(1000?1200C)――トパーズなどを取り除く。
4.中温加熱(1400?1450C)――クリソベリル等を取り除く。
5.高温加熱(1550?1600C)――スピネル等を取り除く。
6.高温加熱の最終段階(1750?1800C)――クリソベリル等の粉末を加えて、再度加熱する。?

最初この方法が偶然行われた時は、加熱工程のNo.4の段階で、サファイア以外の石は全て取り除いたと思っていたのに、クリソベリルの原石が混ざっていたのだ。クリソベリルはイラカカから産出される原石の中にはたくさん含まれており、ホワイトやイエローのクリソベリルも例外ではない。これが今回のパパラチャ・サファイアの出現に偶然つながったのだ。

その後、クリソベリルの化学成分がBeAl2O4であるため、成分の近いイラカカのアクアマリン(Be3Al2Si6O18)の原石を入れて実験したところ、同じ結果が現われた。しかしクリソベリルに比べると、反応が遅く加熱に時間がかかるため、歩留まりは悪かった。

今ではこれらを使い分けている。通常のサイズや品質の原石はクリソベリルを触媒として用いて加熱し、美しい大きなサイズの稀少な石には、アクアマリンを触媒としてゆっくり時間をかけて加熱するとの事だ。

クリソベリルを触媒として加熱した結果、コランダムは様々な色に変化した。しかも、それまでの加熱加工では30%程しか商品化できなかったものが、80?90%もの石がピンク、オレンジ、レッド、ブルー、イエロー、ゴールデン等に加工できるようになった。(写真3) これは画期的な技術革新であり、宝石が本来持っている天然の要素を美しく仕上げようとする新しい加工技術である。言い換えれば、地球がやり残した事の手助けをしているのだ。未熟児で生まれた宝石を見捨ててしまうか、それとも手をかけて一人前になるまで育ててあげるのか。そんな選択に似ている。

今はまだ解明されていない何がしかの化学反応があるのかも知れないが、クリソベリルやアクアマリンを一緒に入れて高温加熱することで、コランダムの色が変わることがわかったのである。

写真3.ルツボから取り出す加熱後の石 / ピンク、オレンジ、レッド、ブルー、イエロー、ゴールデン等様々な色に変化している。

B)? 産地別の加熱結果

同じ種類の宝石でも、産地によって様々な成長過程を経てきているので大きな違いがある。 一番はそこで産出される宝石の色である。スリランカやイラカカ等は、各色のサファイアが産出されているが、オーストラリアやタイ等ではほとんどが青色系のサファイアだけである。 これは玄武岩起源か、石灰岩起源かに大きく起因している。

?マダガスカルを例にあげれば、1995年頃南部のAndranondambo で発見されたサファイアは、スカルン(石灰岩母岩)の中から発見された石灰岩起源の物であり、また2年後北部のDiago Saurez のAmbondromifehyから発見されたサファイアは濃青色の玄武岩起源であった。そして1998年頃発見されたイラカカは石灰岩起源である。一つの国から5年という短い間に3箇所のサファイア鉱山が発見され、それぞれ鉱床に違いがあったことも興味深いが、それらの違いによって加熱の方法を変えているというのも大変な驚きであった。 産地別の加熱方法を整理する。
マダガスカル
マダガスカルのコランダムの産地は、今では大きく分けて3箇所ある。一番産出されているのは、南西部のイラカカである。次に最近注目されている東部Tamatabeの南 Vatomandryのルビーで2年程前から良質な石が産出されている。3番目は北部Diego Saurez 近郊の濃青色のサファイアである。
a) イラカカ地区
淡ピンク?ピンク色 ⇒ パパラチャ、オレンジに変色??
無色 ⇒ 黄色や青色に変色
濃青色 ⇒ 美しい青色に変色
帯黄ピンク ⇒ イエロー、ゴールデンに変色
b) Vatomandry地区
紫赤色 ⇒ ブルー・サファイアに変色
暗赤色 ⇒ 美しいルビーに変色
帯黄赤色 ⇒ オレンジ・サファイアに変色
シルクの入った濃赤色 ⇒ ルチルがTiに変化して、美しい? 青色に変色
?⇒? 途中でパープルに 変色するものもある。
c)Diego Saurez 地区
濃青色 ⇒ 美しい青色に変色
タンザニア
1980年代後半に、南部Songea やTunduru地区の100Km以上に及ぶ地区からコランダムが発見され、世界中が注目する事となった。タンザニアの北東部Umba鉱山は以前から色の珍しいコランダムが発見され、その特徴ある色が大変好まれていた。 しかし自然界はそんなに簡単には美しい物を与えてはくれなかった。ルビー系の色は濃すぎて商品化は出来ず、ブルー系の色は緑や黄色が入り高い値段で販売できる商品はほとんどなかった。しかし一部の石の中には、大変珍しいカラーチェンジタイプがあり人気があった。
a) SongeaとTunduru地区
濃帯紫赤色 ⇒ オレンジ・サファイアに変色
濃暗赤色 ⇒ 美しいルビーに変色
カラーチェンジするサファイア ⇒?パパラチャ・サファイアに変色
帯黄青色 ⇒ イエロー、ゴールデンに変色
帯緑青色 ⇒ イエロー、ゴールデンに変色
パープル・サファイア ⇒ パパラチャ・サファイアに変色
濃青色、混ざった青色 ⇒ 美しいブルーに変色

b) Umba地区
無色 ⇒ 青、黄、パパラチャ、他各色に変色
淡青 ⇒ 美しいブルーに変色
淡ピンク ⇒ パパラチャ・サファイアに変色
淡褐、淡黄 ⇒ イエロー、ゴールデンに変色
スリランカ
従来の加熱加工(エンハンスメント)として知られているスリランカのギゥーダ(Geuda)は、従来の加熱方法でも美しいブルー、イエロー、パパラチャ等に変化したが、クリソベリルを触媒とする新しい加熱方法では、今まで変化しなかった70%程のギゥーダ(Geuda)がほとんど美しいファンシーカラーのサファイアに変化する。
以前変化しなかったGeuda ⇒?イエロー、ゴールデン、ブルー、ピンク等に変色
オーストラリア
以前よりオーストラリア産は濃青色のサファイアとして知られてきたが、それらに含まれている要素によりいろいろな色に変化する。
濃青色 ⇒ 美しい青色
帯緑青色 ⇒ イエロー、ゴールデンに変色
帯黄青色 ⇒ イエロー、ゴールデンに変色
タイ
30年程前の1970年代初め頃、バンコクから美しいゴールデン・サファイアの産出があった。そこはチャンタブリ近郊のBangacha地区で、以後はほとんど産出がなくなっていた。新しい加熱でここの産地のコランダムが美しく変わった
濃緑青色 ⇒ イエロー、ゴールデンに変色
濃黄青色 ⇒ イエロー、ゴールデンに変色
濃青色 ⇒ 美しい青色に変色
淡青色 ⇒美しい青色に変色
ミャンマー
ミャンマーからはMong Hsu産のコランダムが、バンコクに多量に持ち込まれている。ミャンマーの中部高原、シャン州の州都タウンジンから北東に直線で約130Km、マンダレーからは南東に約250Kmに位置する。1991年に発見され、母岩は変質大理石で、モーゴク地区の母岩とほぼ同種である。大変驚いた事に、ここのMong Hsu産のコランダムは同じ方法で加熱を加えると今までとは逆に透明度が悪くなって商品化できるものが少なく、ここの産地の石は新しい加熱方法は用いられていない。
濃赤色、濃紫赤色 ⇒?透明度が悪くなって商品価値は下がる
ベトナム
1989年末、中国国境から75Kmのルック・エン(Luc Yen)地区にルビー鉱区が発見され、ついで翌1990年の10月には、ハノイの南西約200Kmのチャウビン村付近で新しい鉱区が発見されクイ・チョウ(Quy Chau) 鉱区として世界的に注目された。しかしここからの石はミャンマーのMong Hsu産のコランダムと同じく、加熱しても美しい色には仕上がらなかった。

C) 合成ホワイト・サファイアのベリリウム使用の加熱結果

今回のバンコク訪問で一番期待していたのは、合成ホワイト・サファイアをベリリウムを使って加熱実験する事であった。純度の高いベルヌイ法の合成ホワイト・サファイアの原石を、電気炉とガス炉でコランダムを加熱しているルツボの中に一緒に入れて加熱した。つまり合成サファイアも、天然サファイアと同じように変色するかという実験である。?

合成サファイア1個を、電気炉に天然コランダム約1Kgとクリソベリルの粉末と共に入れて、約1700Cの高温で加熱した。ルツボから出てきた加熱後の石は、表面全体に褐色の色が付着していた。そこで約3分の1の所で切断し、小さい方の原石の表面を軽く磨いたところ、たちまち褐色の付着は取れてしまった。これは、蓋を閉めたルツボの中で長時間加熱したため、ルツボの中のコランダム原石のガスやゴミがゆっくり冷えて付着したものと思われる。

もう1つの実験は、ガス炉に合成ホワイト・サファイアを入れて、天然コランダム約1Kgとクリソベリルの粉末を共に入れて1800Cで加熱したものである。(写真1) 冷えてから取り出すと、完全に無色のままで変わりなく、表面は溶けかかり、月のクレーターのようになっていた。(写真4) 海外から、合成ホワイト・サファイアがイエローやオレンジ色に変色したとの報告があったが、今回2台の電気炉とガス炉を用いて、同時に加熱した実験結果では、合成ホワイト・サファイアは変色していなかった。

写真4.ガス炉にて1800Cで加熱後の合成ホワイト・サファイアの原石 ?

そこでこれらの変色していない合成サファイアにベリリウムがどれだけ入り込んでいるかの成分分析が必要となった。しかし、ベリリウムは原子番号4と大変に軽く、通常のX線回析装置では検出ができず、SIMS(2次イオン質量分析機 / 写真5)やXPS(X線光電子分光分析機)を用いて分析しなければならない。

?山梨工業技術センターの協力を得て、これらの加熱加工されたサンプルをXPSを用いて分析することができた。その結果、写真4のガス炉で加熱した合成サファイアの原石には僅かにベリリウムが検出された。しかし、電気炉で加熱した合成サファイアには、確認できる多くの量は入っていなかった。XPSは、測定能力に限界があるため、より微量の成分分析にはSIMSが必要で、現在SIMSの測定結果待ちである。

?また前述のように、両方のルツボから取り出した加熱後のコランダムは、写真3のように様々な色に変わっていて、Diffusion (表面拡散)処理をした時のように、全てが同じ色ではない。

これらの実験結果から、ベリリウム(Be)は、触媒として働いてはいるが、色の起源にはなっていないと判断していいだろう。

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4)まとめ今までの加熱方法と実験結果

? 今回バンコクを訪問し、実際に自分の目で高温加熱をしている炉を見ることができ、ルツボの中から出てくる様々な色のサファイアを見て、この新しい加工技術は100トンの土砂の中からやっと数十グラム発見される原石を、最もきれいな状態で供給する宝石加工の一方法であると痛感した。

かつて宝石は、カットさえされずに使用されていた時代もあった。自然のもたらした宝物をいかに美しく使うか.・・・それは長い宝石とのかかわりの中で研究し続けられてきた。30年ほど前から行われ出した加熱加工は、どのようにして加熱温度を上げるか、どうすれば高温加熱から石を守れるか、そして石が本来持っている要素を引き出すにはどうすればよいか・・・など懸命な研究がなされ、それが時には加工業者、仕入れ業者、鑑別機関との騙しあい、探りあいでもあった。今回様々な憶測の飛び交う中で、バンコク大手の加工業者から、加工現場を包み隠さず見せていただけた事を正しく報告するのが私の責務と感じると共に、新しいベリリウムを使っての加熱方法は、まさに画期的な技術革新であったと感じずにはいられない。5年後、10年後になれば、この発見がいかにすばらしい事であるか分かるだろう。

宝石鑑別上の表記について言えば、今後さらに進んでいくであろう宝石加工技術の中で、人為的に使用される金属元素が直接石を着色する場合と、なんらかの方法で本来その石が持っている要素が引き出されている場合とで、線引きができるのではないだろうか。

外部から着色の起源となる金属元素を加えるDiffusion(表面拡散)処理や、オーバーグロース、放射線処理などがなされた石は、“処理石”のカテゴリーである。しかしベリリウムや水素を使った加熱方法は、上述の通り、本来それぞれの石が持っている色の要素を引き出すと考えられるので、同じ“処理石”のカテゴリーでくくることはできない。しかし何工程もの段階を経て、その石が持っていた美しい色が生み出されているのであるから、今までの“エンハンスメント”といった不明瞭な表現はやめて“加熱加工”が行われていることを明記すべきである。

今まで“エンハンスメント”として受け入れられていた ギューダ(Geuda)、各種コランダム、パライバ・トルマリン、タンザナイトとして人気のあるブルー・ゾイサイトもこのカテゴリーに入る。平成6年に取り決められた宝石鑑別団体協議会のルールブックには含まれていないイエロー・トルマリンも、一部の石を除いて大半が加熱されているので、これらも当てはまるだろう。記載方法が細分化されればされるほど、各鑑別機関の足並みをそろえるのは難しく、誤鑑別を招きかねない。ほとんどの天然石が加熱加工されている現在、“加熱加工”の開示をし、“色の改変が行われている”ことを明記した上で、“処理石”のカテゴリーとの区別をしてはどうだろうか。その上で、ユーザーの方々に選んでもらうべきではないか。

写真5. 山梨県工業技術センターにあるSIMSとXPSの

複合型分析機

<写真撮影;新海治子>

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5)鑑別書表記についてのご提案

Description of Beryllium treatment

A:ベリリウム加熱のパパラチャ・サファイアの場合

<旧鑑別書表記>
鑑別結果 天然パパラチャ・サファイア
色相透明度 帯橙ピンク色透明石
コメント 天然サファイアには一般にエンハンスメントが行われています

<新鑑別書表記>
鑑別結果 天然サファイア
色相透明度 帯橙ピンク色透明石
コメント 帯橙ピンク色のサファイアは、市場ではパパラチャ・サファイアと呼ばれています。

※ 鑑別結果に “天然サファイア” と書く場合には、改変された色名が記載されるべきではない。

※ “コランダム” という言葉は日本ではなじみが薄いが、
諸外国では鑑別結果に“天然コランダム”、種に“天然サファイア”と記載している。
この機会に諸外国と足並みを揃える事も検討してはどうだろうか。?
?????? 例 : 天然コランダム / サフアイア 天然コランダム / ルビー?

※ 日本語による開示?
エンハンスメント ⇒ 加熱加工により色の改変が行われています。?
トリートメント (例:Diffusion)?⇒ 表面拡散処理により色の改変が行われています。

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第23号特集号 “ベリリウム加熱のパパラチャ・サファイア” 2002.12.12.発行

?ベリリウム加熱のパパラチャ・サファイア
     
加熱加工の開示

?Diffusion処理とは・・・
?今までの加熱方法
?新しい加熱加工に用いる炉
?ベリリウム (Be) 加熱加工の結果
  A) 新しいベリリウム使用の加熱方法
  B) 産地別の加熱結果
  C) 合成ホワイト・サファイアのベリリウム使用の加熱結果
?まとめ / 加熱加工の開示

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